ひさしぶりに研究の話.わかんない人はごめんなさい.


明日は指導教員たちと面談.2月に出した草稿がネタだ.すでにMurdoch先生からはメールでなっがいコメントをもらっているので,明日はDevine先生とDickinson先生からのフィードバックを受けてどう方向を調整・修正するのかがポイントになる......はず.


今回の草稿は第一章に当たるもので,だいたい1707-1730年くらいのグラスゴウの都市政治および民衆の反応を,議員選挙,参事会選挙などの公的政治制度に焦点を絞って扱ったもの.ただ民衆政治に関してはあまりネタというか発見がないので,基本的には都市政治とそれをめぐる大貴族の支配が叙述の主な対象となった.特に最初にMurdoch先生に提出した草稿ではその側面が強く,あまりオリジナルなリサーチの成果は盛り込めていなかった.そこでMurdoch先生は「1707年の合同がスコットランド政治システム,そしてその中における民衆政治の在り方にあたえた影響を論じなさい」「宗教を入れなさい」というシンプルかつ重要なアドバイスをくれた.二度目の草稿提出までほとんど時間がなかったのでこの両方の点をしっかり盛り込むことはできなかったが,前者の合同の影響という点はある程度議論の枠組みを作り上げることはできた.後者はネタも史料もたくさんあるものの,最初の草稿で作り上げた叙述に組み込むことが簡単ではないので,ちょっと保留という感じ.明日はこの点が議論の一つになると思う.


というか,やはり宗教なんだな,18世紀は.スコットランドは教会制度とその世俗権力との関係の在り方から,ローカルレベルでは宗教=政治だし,民衆と政治との関係という要素を考慮するならこれは不可欠もいいところなのだ.1707年の合同により議会がロンドンに移り,ただでさえ一般民衆のレベルからは遠かった国レベルの政治がもっと遠く離れてしまい,議員選挙はイングランドに比べてものすごく閉鎖的で関与する余地もなし,都市レベルの政治も寡頭制.こういった状況の中で,エリートじゃない人たちはどうやって政治に関わったのか,という問いが私の博論の大きなテーマの一つになる.そして答えの一つは宗教との兼ね合いにあるのだ.


1707年の合同では議会政治は変動したものの,教会統治はスコットランド固有の長老教会制度が保持された.その長老教会は近代の代議制レベルに微妙に似ていて,地元の教区教会から長老教会総会まで代表・代議制でつながっており,教区教会レベルの紛争が解決を求めてより上位の教会組織へと付託されていった.教区教会では地元の地主層だけではなく家長までもが議決に参加できるので,いわゆる草の根レベルの意見がそこには反映された.そしてこの教区教会レベルで最も重要な問題が,牧師の任命であった.1712年の推挙法(Patronage Act)施行後は,教区教会の牧師の任命はその教会の叙任権を持つ世俗の人物あるいは団体(国王・大貴族・地主・参事会・大学等々)の推挙によって決まるのだが,その推挙に教区の人々が反対の場合,それは非常に厄介な紛争となる.教区教会の反対により上位の教会組織へ委ねられることもあるし,推挙された人物とは別の牧師が任命されることもある.そして推挙された牧師が反対を押し切って教区にやってきた場合には,暴動も発生する.


こうして教会人事は,18世紀スコットランドで宗教と世俗政治,世俗権力と一般の人々の意向が接触し,宗教が政治となる場であった.そしてここでこそ,合同後のスコットランド政治の再編で国レベルの政治への参与の機会を失った民衆が,自らの政治観念・政治意識を涵養・保持し,また影響力を行使することが可能であった.さらにこの長老教会の組織が世紀後半の活発な政治運動の母体となっていき,その運動には長老教会の宗教観に典型的な平等観念・急進思想が反映されるであろう.こうしたストーリーをしっかりと史料に基づいて叙述していくのが私の博論の重要な仕事の一つなのだ――というのがいまのところMurdoch先生と議論してたどり着いた論点.なのでMurdoch先生は,それ入れないでどうすんの? ということを伝えたかったわけ.だと思う.


まあ実際に起きた紛争はここで書いたほどクリアカットに行かないし,世俗権力同士の教会人事をめぐる争いもあるので,けっこう厄介なんだな.私が今回の草稿に盛り込めなかったのは時間が足りなかったからだけじゃなくて,これが原因でもある.とはいえ厄介だからと言って逃げてちゃダメだよな.しっかり書かないと.ちなみにMurdoch先生からはさっさと次の章書け,とも言われている.けっこう急かすのね.


いまのところの研究の進展はこんな感じ.このペースでやってけば2年目の終りには3.5章くらいは書けるかな.どうだろう.まあやってみましょう.


ちなみに草稿提出のご褒美というわけではないんだけど,来週日本に一時帰国する予定.2.5週間くらい.桜が見れるといいな.