Scotland and the Union 1707 - 2007

明日はこれ.師匠のDevine先生もパネルの一人だ.ChairはBBC ScotlandのBrian Taylorだし,メンツはメンツだし,そうとうpoliticalな講演会になりそうだな......ドキドキ.

行ってきた

この講演会はDevine先生編でつい先日出版されたこの本の出版を記念して行われたもの.

Scotland and the Union, 1707-2007

Scotland and the Union, 1707-2007

まだ読んでないんだけど,歴史家だけではなく法律家や政治学者の論文も含まれており,合同の歴史+現代の合同について論じた論集のようだ.とりあえず私の師匠は二人とも寄稿している.


この講演会のパネルはOwen Dudley Edwards(アメリカ史の研究者,エディンバラのhonorary fellow),Magnus Linklater(新聞Scotsmanのジャーナリスト),Sir Neil MacCormick(SNPのvice-presidentでありエディンバラ法学部の欽定講座教授),Joyce Macmillan(ジャーナリスト?)の4人.司会はBBC ScotlandでおなじみのBrian Taylor.Devine先生はトリで登場した.


で,基本的には出版記念講演会だから,「なんとすばらしい論集」「なんと刺激的な議論」「たいへん教育的で読者の蒙を啓くこと間違いなし」「合同についての議論の出発点になる」「これは売れる(笑)」などの称賛の言葉がほとんどだったのだが,それでもやはりパネル一人一人の議論の仕方から,それぞれが合同についてどう考えているのか,要は必要か否かについての意見が明確にわかった.経済的にスコットランドの独立は難しいから合同はやはり必要だ......EUがいまや確固たる政治的枠組みとして機能している以上UKという枠組みにこだわる必要はない......議会開設から独立へ向けた動きは市民運動をベースにして進められてきたものであり,独立はトップダウンの政策ではなく市民・国民が求めていることなのだ......云々.まあパネルの人たちはそれほど極端な意見は述べるはずもなく,まあそうだよね,という感じでまとめていた.


面白かったのはフロアの反応.質問のうち半数以上が,スコットランドの独立を前提に経済的な自立は可能か,という点に集中していた.パネルの一人によると,去年の1月に同じくエディンバラで開かれた合同300周年記念の講演会ではフロアから合同を支持する意見がほとんど出なかったらしいのだが,今回もほぼ同じだった.もちろん,あらゆる政治的問題については反対派のほうがうるさい(笑)ということを考えるとこれは驚くことではないのだけれど,それにしても合同に賛成する声がほとんど聞かれないということはやはり印象的である.

Pillars have gone away

300年前にスコットランドが合同を「選択」したのは経済的な要因が大きかったことはよく知られている.そしてその後,スコットランドはUKの枠組み中で経済的発展を享受してきたわけだが,この経済的発展こそが合同の柱(pillars)であり続けたということが,この講演会でも一般的な認識として共有されていたように思える.この点で面白いのが,ScotsmanのジャーナリストMagnus Linklaterが数日後にうちの新聞に載るけれど,と前置きして述べたIan Rankin(スコットランドの一番有名な小説家)とAlex Salmondのインタビューのエピソードである.RankinはSalmondに,合同で一番重要なことは何か,と聞いた.Salmondは少し考えた後,合同の柱はそれにより得られる経済的恩恵だった.だがいまやそれは失われた(They have gone away),と答えた.そして私の後ろに座っていた中年の男性は「その通り!(And he is right!)」とつぶやいていた.そう,合同の柱は失われたのだ.ではなぜそれにこだわり続けるのだ? これが反対派の共有認識のように思われる.


ただやはり難しいのは,経済的な問題はそう簡単には片がつかないし,独立派の議論もそれほど説得的ではないことだ(シティとの金融のつながりが薄れたらスコットランドはやっていけるのか? グローバルエコノミーの荒波に人口600万人のこの小国が耐えられるのか?).この辺はEUに活路を見出す,という声が大きいけれど,それはポンドスターリングとの決別を意味するし,そうなるとスコットランドの金融は難しい状況に陥るかもしれない.


こうした経済的議論の一方で,確かに昨今の労働党の失策,特にブレア政権のイラク戦争関与などが合同への忌避を促進していることは間違いない.パネルの一人がこの点にやや興奮気味に答えていて,非人道的侵略,理由のない戦争に加担するのは金輪際お断りだ,みたいなことを言っていた.Salmondも独立は社会的問題ではなく政治的問題だ,と言っている.でもこの点も独立派の議論は弱い気がする.だってすでに議会もあるし,制定法作れるんだからこれ以上なにが必要なのか? 独立したとして政治的には何が変わるのか? スコットランド人は何を求めているのか?

It's time

おっと,なんかモノローグのようになってしまったが,この講演会はこちらに来てから私がうすうす感じていたことの確信度を高めることになった.それは,スコットランドが独立する可能性は低くない,ということである.少なからぬスコットランド人が独立を望んでいる.合同をどう維持するかではなく,独立後にどうやっていくかということを考えている.ちなみに私のスコットランド人の友人のうち,半分以上が独立に賛成である.アカデミックな世界では合同賛成が当たり前なんだと思ってたけど......という私に,10年前ならそうだったかもしれない.でも今は違う.その時は来たんだ(It's time).とマシューは答えた.


2010年の国民投票,ひょっとするとひょっとするかもしれない.