A trip to Stirling (revised)

ちょっと独りになってゆっくりしたかったので,先日スターリングに行ってきた.

かつての王都

スターリングはエディンバラからバスで1時間くらい,ローランドの奥地,ハイランドの入口といったところに位置する街.いまでこそ小さな地方都市だが,16世紀末まではステュアート朝の王がスターリング城の王宮に住み,王族の洗礼や国王の戴冠のみならず議会も開かれていたくらいだから,スコットランドのかつての王都と言っても過言ではなく,旧市街の頂上(という言い方がいちばんいいような)にあるスターリング城や,その周りの教会や宮廷貴族の邸宅跡に,その様子を垣間見ることができる.1日で見て回れるし,近いし,エディンバラからの小旅行にはもってこい.ちなみに交通はCitylinkという中−長距離バス(こちらではcoachという)が安くて便利.往復で£7くらい.

スターリング城(Stirling Castle)


エディンバラ城と同じく,旧市街の岩盤の頂上に作られた中世以来の城.周りから見た様子もエディンバラ城とよく似ているけど,建物の保存や展示の見せ方などはこちらのほうが面白い.入場料はアーガイル・ロッジングと共通チケットで£8.5.音声ガイド(有料......だったかな?)も日本語のものがあるので,日本の観光客でも楽しめるようになっている.英語がだいじょうぶな人は,一日数回行われるガイド付きのツアー(無料)がお勧め.サービス精神満点のガイドの人の話がとてもおもしろいです.あと関係ないんだけど,私が行ったときに入口で受付のおじさんに日本人か? と聞かれたのでそうだと答えると,なんとそのおじさんが日本語で話しかけてきた(笑).コンニチハ,ヨコソイラシャイマシタ,ワタシハニホンゴガスコシハナセマス,テンノウアキヒトコウゴウミチコ(いやマジで)などなど.どうやらスターリング城で働いているスタッフに日本人の女性がいるらしく,彼女に教えてもらったとのこと.札幌出身というその女性は,敷地内の奥のほうにあるタペストリー工房みたいなところで働いているらしい.残念ながら会うことはできなかったけど......

アーガイル・ロッジング(Argyl's lodgings)


スターリング城の真正面にあるくすんだピンクの建物は,アーガイルズ・ロッジングといって,あのアーガイル家のスターリングでの邸宅.1630年代にスターリングの名望家により建てられ,その後アーガイル家が所有することになった.建物はコの字状で,通りに面している部分には外壁があるのだが,1670年代の増改築により現在の姿になったという.建物に入ってすぐのひろびろとした応接間(?),1階奥のキッチン,2階の食堂などがなかなか見事に観光向けに保存/修復されているので,歴史好きには見ごたえがある.ここでもキャッスル同様にガイド付きのツアーがあるのだが,それがお勧め.ガイド役のおっさんがこれまたサービス精神満点でかなり面白い.

マーズ・ウォーク(Mar's Wark)


アーガイルズ・ロッジングのすぐ近くにある黒ずんだ廃墟はマーズ・ウォークという,あのマー伯の邸宅跡.ここは一般公開されておらず,中に入ることができないため残念だが,16世紀のルネサンス様式の特徴が顕著な正面のファサードは見ごたえがある.1715年のジャコバイト反乱のあとは政府軍の要塞として改築され,1745/6年の反乱時にはジャコバイト軍の攻撃を受けて廃墟と化したという.それ以来250年にわたり放置されている廃墟は,なんとも言えない迫力がある.

ホリルード教会(Holy Rude Church)


マーズ・ウォークのこれもすぐ近くにある15世紀設立の教会.神聖なんだか(holy)無礼なんだか(rude)よくわからない名前だか,いちおう古いスコットランド語でholy crossという意味.....らしい(エディンバラのHolyroodも同じ語源とか).教会内陣には15世紀以来の古い部分がいまでも残っている.歴史的にはスターリング城に居住していたステュアート家が利用する教会として非常に重要で,ジェイムズ6世の戴冠はここで行われたという.が,そのあたりの歴史的重要性を見せたり聞かせたりする努力は行われておらず,傍目にはふるーい教会,という感じ.



うーん,なんか観光ガイドみたいになったけどまあいいか.他にもいろいろと見て回ったのだけど省略.でもスターリング城とアーガイルズ・ロッジングにかなり時間を割いたので,ウォレス・モニュメントや少し離れた場所にあるバノックバーンの古戦場などには行けずじまい.ちょと残念.まあ次の機会に,ということで.


今回行って思ったのが,スターリング城やアーガイルズ・ロッジングを管理しているヒストリック・スコットランド(Historic Scotland)はかなりいい仕事をしているな,ということ.この団体はスコットランド政府のexecutive agency(なんて訳すんだろ)として1991年に設立され(当時はスコットランド政府ないけど),それ以来スコットランドにある歴史的建造物や遺跡の保護・管理・運営を行っている.今回とても感銘を受けたのはアーガイルズ・ロッジングのこと.


アーガイルズ・ロッジングは,アーガイル家がインヴァレリの所領に移り住んでから使われなくなり,18世紀後半には軍の管轄におかれ,それいらい軍の救護所などとして利用されてきた.大戦後はユースホステル(!)に払い下げられ,1960年代までは貧乏な若者が寝泊まりする安宿として使われていたのだそうな.信じられん.それを1991年にヒストリック・スコットランドが買い上げ,観光用に補修・改装を行い,現在の姿になったのだという.ロッジングの1階奥のキッチンには17世紀当時の食器や棚を復元したものが置いてあり,また2階の大食堂では,アーガイル家の史料(財産目録inventory)を元にテーブルや椅子や食器などが再現されていて,訪れる観光客に17世紀後半の大貴族の生活の様子を伝えている.これはなかなか立派な仕事といえると思う.


その仕事ぶりに感銘を受けたので(それにガイドのおっちゃんたちも面白かったし),さっそく帰ってから£29払ってヒストリック・スコットランドの会員になった.会員だとヒストリック・スコットランドが管轄する各地の歴史的建造物などの入場料が割引になり,会員用の季刊誌も送られてくる.とりあえず£29分回収するために,今年はたくさん国内旅行に行くつもり.